
ここ数年、クリニックの経営相談を受けていて明らかに増えたと感じるご質問があります。「うちでも自費診療をやったほうがいいでしょうか」というものです。
内科や眼科、整形外科といった、いわゆる保険診療が本業のクリニックの先生方からこの質問が出るようになったこと自体が、時代の変化を物語っています。かつて自費診療といえば美容外科や一部の歯科の話でした。それがいま、ごく普通の「街のかかりつけ医」の経営テーマになりつつあるのです。
なぜ今、自費診療なのか
背景にあるのは、保険診療という収益構造の限界です。
保険診療の価格は診療報酬という公定価格で決まっており、医院が自由に値上げすることはできません。一方で、人件費・光熱費・医療材料費はこの数年で大きく上昇しました。2026年度改定はプラス改定となったものの、引き上げ分の多くは賃上げ原資としての性格が強く、「収入は国が決め、コストは市場が決める」という構造そのものは変わっていません。
そこに、患者さん側の変化が重なります。健康寿命への関心の高まりから、病気を治すだけでなく「予防したい」「より快適に過ごしたい」というニーズが広がりました。自費の予防接種やワクチン、各種検査、点滴療法、睡眠やアレルギーへの自費メニュー、AGAや美容皮膚といった領域まで、保険の枠外で患者さんが自ら選ぶ医療の裾野は確実に広がっています。価格を自院で設計できる自費診療は、こうしたニーズに応えながら経営の安定性を高める、数少ない選択肢のひとつです。
ただし「自費なら自由」ではない
ここで釘を刺しておきたいのは、自費診療=何でも自由、ではないという点です。
自費であっても医師法や薬機法は当然に適用されますし、医療広告ガイドラインの規制もかかります。さらに2025年12月に成立した改正医療法では、美容医療に定期報告義務が設けられるなど、自由診療を一定の管理・監督下に置く流れが明確になりました。「保険外だから行政は見ていない」という時代は終わりつつあります。
また、経営面でも安易な参入は禁物です。コロナ禍で自費領域に拡大した医療機関が、需要の反動で苦戦した例は記憶に新しいところ。メニューを増やせば売上が立つわけではなく、自院の診療科との親和性、地域の患者層、適正な価格設定、スタッフへの説明と教育、同意書や説明資料の整備まで、設計すべきことは思いのほか多いのです。
成否を分けるのは「設計」と「運用」
うまくいっている医院に共通するのは、自費診療を「点」ではなく「仕組み」として導入していることです。
どの患者さんに、どのタイミングで、誰が、どう案内するのか。価格はどう根拠づけ、カルテや会計、在庫管理はどう回すのか。トラブル時の対応フローは。こうした運用設計まで含めて初めて、自費診療は院長先生の負担を増やさずに収益に貢献してくれます。
逆に言えば、設計を診療の片手間で行うのは危険です。料金表をつくって待合室に貼っただけで終わってしまった、という医院を筆者は何院も見てきました。自費メニューの企画から法規制の確認、スタッフオペレーションの構築までを一緒に進めてくれる外部の事務長機能・コンサルタントの活用は、この領域でこそ検討する価値があります。保険診療を本業として守るために、自費診療という第二の柱をどう立てるか。落ち着いて設計を始めるなら、早いに越したことはありません。
(参考:厚生労働省 医療広告ガイドライン、「医療法等の一部を改正する法律」(2025年12月成立)ほか)
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