
「電子カルテって、結局いつから義務になるんですか?」
クリニックの院長先生から、ここ1〜2年で最もよく受ける質問のひとつです。先に結論を申し上げると、現時点で電子カルテの導入が法律で義務化されているわけではありません。ただし国は、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関で、必要な患者情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」という明確な目標を工程表に掲げています。義務ではないが、国の方向性は固まっていて後戻りはない――これが現在地です。
国を挙げて進む「医療DX」の全体像
医療DXの推進は、いまや一省庁の施策ではありません。2022年には総理大臣を本部長とする医療DX推進本部が内閣に設置され、翌年には具体的な工程表が策定されました。マイナ保険証によるオンライン資格確認、電子処方箋、全国の医療機関で診療情報をやり取りする電子カルテ情報共有サービス、そして中小医療機関でも導入しやすい標準型電子カルテの整備。これらが「全国医療情報プラットフォーム」という一つの絵につながっています。
2025年の通常国会には、この基盤整備に必要な法制上の措置を盛り込んだ医療法等の改正案が提出され、制度面の整備も着々と進みました。診療報酬の面でも、医療DX推進体制整備加算のように、体制を整えた医療機関を評価する流れが2026年度改定で一段と強まっています。
紙カルテのままだと、何が起きるのか
「うちは紙で何十年もやってきたし、患者さんも困っていない」という先生のお気持ちは、よく分かります。実際、いますぐ違法になるわけでもありません。
ただ、医療の情報基盤そのものが電子カルテと電子処方箋を前提に組み替えられていく以上、紙のままでは少しずつ「参加できない場面」が増えていきます。他院や薬局との情報共有、地域連携、そして将来的には診療報酬の加算要件。じわじわと、しかし確実に、紙カルテの医院とそうでない医院の間に差が開いていく構図です。
特に院内サーバー型(オンプレミス型)の古い電子カルテをお使いの診療所は、次のシステム更改のタイミングが大きな分岐点になります。標準規格に対応したシステムへどう移行するか、今のうちから情報収集を始めておいて損はありません。
DXの本当の目的は「導入」ではなく「時間を取り戻すこと」
一方で、現場で見ていて気になるのは、「システムを入れること」自体が目的化してしまうケースです。補助金が出るからと急いで導入したものの、運用が現場に馴染まず、かえって受付が混乱してしまった――そんな話も珍しくありません。
医療DXの本来の目的は、事務作業に費やされていた時間を、診療と患者さんに取り戻すことにあるはずです。そのためには、自院の業務フローを棚卸しし、どこにムダがあり、どのシステムが本当に必要なのかを見極める「経営側の目」が欠かせません。
ITに明るいスタッフがいない、ベンダーの説明を比較検討する時間がない。そんなクリニックにとっては、システム選定や補助金申請、導入後の運用定着までを伴走してくれる外部の事務長機能を活用するのも、現実的な選択肢のひとつです。2030年はもう「先の話」ではありません。波に呑まれるのではなく、波を使う側に回る準備を、そろそろ始めてみませんか。
(参考:政府「医療DXの推進に関する工程表」、厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会資料ほか)
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