
2026年度の診療報酬改定が、この6月1日からいよいよ本格施行されました。今回の改定率は本体プラス3.09%。薬価等の引き下げ分を差し引いたネットの改定率でもプラス2.22%と、全体がプラスに転じるのは2014年度以来、実に12年ぶりのことです。本体の改定率が3%台に乗るのは1996年度以来30年ぶりといいますから、医療界にとって久々の「大型改定」と呼んでよいでしょう。
ニュースの見出しだけを見れば、医療機関には素直に喜ばしい話に思えます。ただ、現場でクリニックの経営に携わっていると、手放しでは喜べない院長先生の声も少なくありません。今回はその理由も含めて、改定のポイントを整理してみたいと思います。
今回の改定の柱は「賃上げ」「物価高騰対応」「医療DX」
まず押さえておきたいのは、今回のプラス分が「自由に使えるお金」として降ってくるわけではない、という点です。
引き上げ分の多くは、医療従事者の賃上げや物価高騰への対応に充てることが想定されています。象徴的なのがベースアップ評価料で、スタッフの処遇改善を実際に行うことが算定の前提になります。つまり、点数が上がった分はスタッフの給与原資として外に出ていく設計です。「増収にはなるが、増益になるとは限らない」――これが多くの経営コンサルタントの共通した見方ではないでしょうか。
もうひとつの柱が医療DXの推進です。医療DX推進体制整備加算をはじめ、電子処方箋やオンライン資格確認などの体制整備を評価する流れは、前回改定から一貫して強まっています。在宅医療の充実も重点項目とされ、外来・在宅・入院それぞれで「国が医療機関に求める姿」がより明確になった改定といえます。
外来クリニックへの影響――再診料は76点へ
身近なところでは、再診料が75点から76点に引き上げられました。一方で初診料は291点のまま据え置きです。1点の引き上げと聞くと小さく感じますが、再診中心の内科や眼科、皮膚科などでは、年間で見ればそれなりの収入差になります。
また、入院時の食費など患者さんの自己負担が増える項目もあるため、窓口での説明対応は丁寧に準備しておきたいところです。改定のたびに「会計が変わった理由」を受付スタッフが矢面に立って説明することになるのは、どの院でも同じ。患者さん向けの掲示物や説明資料を早めに整えておくだけで、現場の混乱はずいぶん減ります。
「届出を出せるかどうか」で差がつく改定
今回の改定で個人的に強調したいのは、施設基準の届出や算定要件の確認といった事務作業の巧拙が、そのまま収益の差になるという点です。
新設・拡充された加算は、要件を満たしていても届出をしなければ1円にもなりません。逆に、要件をきちんと読み込み、自院の体制を整えて届出を出した医院は、プラス改定の恩恵をしっかり受け取れます。30年ぶりの大型改定とは、言い換えれば「事務方の実力が試される改定」でもあるのです。
とはいえ、診療の合間に厚労省の資料や疑義解釈を読み込むのは、正直なところ院長先生おひとりでは限界があります。常勤の事務長がいないクリニックであれば、こうした改定対応こそ、事務長代行のような外部の専門家に任せる価値が大きい領域です。点数表とにらめっこする時間を、診療と患者さんに振り向ける。そのための体制づくりを、この改定を機に一度見直してみてはいかがでしょうか。
(参考:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」関連資料ほか)
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